おかやまDMネット(岡山県糖尿病対策専門会議)

過去の相談内容

 

糖尿病性網膜症の発症と進展を抑えるためにはHbA1cの変化を6か月で1~3%(0.2~0.5%/月)以内にする必要があると聞いたことがありますが、例えばHbA1cが10%の糖尿病患者では7%までに下げるのに17ヶ月くらい要してしまうことになり、急速な血糖降下は網膜症の悪化を招くことへの配慮ではあるのですが、この緩徐な血糖降下への処置に疑問があります。
また、罹病期間が短いケースと非増殖性網膜症では急速な血糖コントロールが可能で、増殖網膜症では急速なコントロールは禁忌と指導されてきましたが、網膜症の発症予防の為にも緩徐な治療が必要でしょうか?(岡山市/医師)

 

 網膜症を有する糖尿病患者の血糖コントロールをいかに行うべきかについては、臨床上もよく議論の対象になる重要な課題かと存じます。
 1型糖尿病患者を対象として、強化療法によって合併症の発症・進展を予防できるかどうかを検証したDCCTスタディ(N Engl J Med. 1993;329:977-986.)では、①網膜症のない患者を対象とした発症予防(一次予防)効果と、②既に網膜症を認める患者を対象とした進行予防(二次介入)効果について検討されました。
①発症予防(一次予防)の効果:網膜症の発症率は、最初の3年間は強化療法群と従来療法群との間で差なし。その後、強化療法群で発症率が低くなり、最終的には強化療法群では従来療法群に比べて網膜症発症リスクが76%低下。
②進行予防(二次介入)の効果:最初の2年間は従来療法群よりも強化療法群で発症率増加するも、3年目からは逆転し、最終的には強化療法群では従来療法群に比べて網膜症進行のリスクは54%低下。
 また、同じDCCTのサブ解析では、強化インスリン療法群で網膜症の早期悪化を多く認め、そのリスク因子は「初期のHbA1c高値」と「初期6ヵ月以内でのHbA1c改善」とされましたが、最終的な長期予後は強化インスリン療法群の方が良好でした(Arch Ophthalmol 1998; 116: 874-886.)。

 上記の通り、網膜症のない患者を対象とした発症予防(一次予防)の検討でも強化療法による早期での網膜症の発症は指摘されておりません。実臨床では、網膜症がないことを確認後に比較的急速な血糖コントロールを行った症例で、早期の段階で新たに網膜症が出現することが稀に経験されますが、良好な血糖コントロールの維持によりその殆どが吸収されて消失し、再び「網膜症なし」の状態に戻りますので、現時点で網膜症の発症予防のために緩徐なコントロールを行う必要性はないと思われます。また、高血糖を速やかに是正した場合に一時的な調節障害(「新聞の文字が読みにくい」など)が生じることもありますが、網膜症の増悪ではなく、数週間程度で改善します。
 DCCTでの登録症例はすべてNDR(網膜症なし)かSDR(単純網膜症)までの症例であり、PPDR(増殖前)およびPDR(増殖網膜症)の症例においては、急速なコントロールにより時に網膜症の急激な悪化を認め、場合によっては失明につながるケースもありますので、慎重な対応が必要になります。網膜症発症と進展のリスク因子としては、①糖尿病の罹病期間が長い、②HbA1c高値、③初診時に重傷な網膜症を認める、④高血圧症の合併がある、⑤妊娠中、の5項目が挙げられ(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)、このような症例では治療開始時あるいは治療開始前から眼科を受診させ、注意深くフォローする必要があります。
 具体的にHbA1cの低下速度をどの程度まで抑えるのがよいかは明らかではありませんが(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)、ハイリスク症例ではHbA1cを0.5%/月程度のペースで下げることが経験的に以前から推奨されています。しかし、ご指摘のようにHbA1c高値の症例では高血糖が持続することによるデメリットの方が大きくなる可能性もあり、また、食事療法のみでもHbA1cが月に1%以上改善することもあります。さらに、DCCTの行われた1980年代と比較して、現在は持効型インスリン、超速効型インスリン、DPP4阻害薬が登場し、低血糖を起こさずに良好な血糖コントロールが実現できる時代になっておりますので、「HbA1c -0.5%/月程度」という数値は現在の臨床においてどれほど実用性があるかは疑問です。現実的には、中等度以上の網膜症を有する症例においては、①食前血糖150mg/dl程度、②低血糖は厳に慎む、③速やかに眼科治療を開始し、光凝固等により眼科的に安定した状態を早く作り出す、という対処になるかと思われます。
                          (回答: 医師 四方賢一、利根淳仁)

64歳の無職、男性、糖尿病性腎症の患者さんですが、血清Cr 6.8mg/dl, 浮腫が出ているため、主治医の先生から透析の話が出ていますが、医療費を心配されています。透析になると、いくらくらいかかるのでしょうか? (岡山市/看護師)

透析になると高額な医療費がかかりますが、その医療費を助成する制度として下記の2通りがあります。
(1) 自立支援医療(更生医療)
 身体障害者手帳を取得した方が受けられる制度です。所得水準により1ヶ月2万円までの自己負担になります。窓口は市町村役場の福祉課です。
(2) 特定疾病療養費制度
 現在加入している医療保険(国保や協会けんぽ等)の高額療養費制度に準ずる制度です。1ヶ月が1万円(高額所得の方は2万円)の自己負担になります。窓口は、加入されている医療保険になります。

 

(1)と(2)は同時に両方手続きすることができ、自己負担の少ない方を選択できます。また、身体障害者手帳を受けた時、等級が1,2級ですと重度心身障害者医療費制度の対象にもなります(市町村により対象、自己負担は異なります)。

 また、ご相談の患者様は64歳で無職とのことですが、条件によりますが、透析導入により障害年金の対象になる可能性があります(障害年金は納付要件の関係で、すべての方が受給できるわけではありません)。

 詳細につきましては実際に透析を導入する医療機関でご相談いただければと思いますが、このような手続きを取ることでご負担は軽減出来ます。

(回答:医療ソーシャルワーカー 石橋)

※公開許可を頂いた相談事例については、匿名化の上、公開しております。

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